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クリス智子 クリス智子
クリス智子

人生もっと、どぅかってぃ。

CHRIS TOMOKO

人生もっと、どぅかってぃ。

CHRIS TOMOKO

 早めの夏休みをとり、沖縄にやってきた。懐かしい。毎年この時期になると一週間、沖縄からラジオの生放送をしていたことが8年ほどあった。まだ気怠い梅雨の続く東京から向かうと、初日は必ず、がつんとパンチのある沖縄の太陽に洗礼を受けながら、放送前の週末はスタッフとできるだけ取材。一気に身体に入ってくる沖縄特有の空気をどう伝えたらいいか、いつもまとめきらないままに月曜の朝ははじまっていた。月曜以降は午前中の生放送を終えると、午後にはまた次の日の放送のための取材で沖縄を走りまわったが、当時の集中した沖縄滞在の日々のおかげで、沖縄にはたくさんの思い出と、知人友人ができた。海や空、生い茂る緑に強烈な印象はもちろんのこと、それ以上に「人に会った」という感覚がとても強く残るのが沖縄で、会う人話す人、この沖縄という自然と文化の中での、尊重という根っこを持つ大木から、自由に伸びた枝葉の個性に惹かれる。その人らしい言葉が胸に残る。私にとって沖縄は人に会いに行きたくなる土地だ。

 沖縄では、人に出会うと人から人へ、または場所へ、どんどん繋がっていくことを知っているので、今回もあまりスケジュールを決め込まず、気のままに動くことにしていた。例えば、ランチを共にした友人に「涼しい沖縄って、どこかある?」と聞いて教えてもらった、湧き水の冷たい「垣花樋川」(かきのはなひーじゃー)に行ってみたり、宿で何気なく言葉を交わした人がオススメしてくれた「浜辺の茶屋」は、想像以上のパノラマ絶景だった。アイスティーの向こう遠くの水平線をぼーっと眺めながら、ふと開いた冊子にちょっと気になる手ぬぐいの店。行かないと後悔する気がして調べてみたら、茶屋から車で20分、そのまま向かってみることにした。

 細い坂道を上り、民家の間を抜け、こんなところにあるのかなぁ、とぼやきながらGoogle map の指示通りに向かうと、たしかに手捺染の工房「Doucatty」の看板の前で道案内は終了。車をとめ、今度は手描きの「→」を追いかけるように民家の脇を通る。開けた裏庭の奥に、青と緑を映す木とガラスの建築。素敵な空間に迷い込んだ気分。‌‌ガラス扉を開けると、今度は、一気に大胆な色とデザインの動植物たちが目に飛び込んできた。

 手ぬぐい、スカート、Tシャツ、バッグなど、いろんなものが並ぶ店内、キョロキョロ、上から下、左から右へと目を忙しく泳がせているうちに、図柄一つ一つの世界観にぐいぐい気持ちが引き寄せられ、モノの形はどうでもいいような気すらしてきた。奥は工房で、こちらは一転、静謐な空気に包まれていた。店主ご夫婦と話しながら、いくつか手ぬぐいを購入しようと手渡すと、ご主人がニコニコしながら静かに鉛筆を動かし始めた。

 値段を計算されているのだろうと、財布片手にしばらくカウンター越しに眺めていると、ん...?もしや、購入した手ぬぐいたちの図柄を一枚の紙の上にまとめて描いていらっしゃる?それも値段付き。つまり、これは領収証か?!こんな、もらって嬉しい領収証、額装したい領収証なんて、あるだろうか。領収証からも人柄が滲み出るとは、さすが沖縄。購入した手ぬぐい同様、領収証を嬉しそうに握りしめた。

 ちなみに、店名の「Doucatty」は、シンボルの猫ちゃんたちのこともあるかもしれないが、「どぅかってぃ」は沖縄の言葉で「自分勝手」という意味だそう。本来は、他人に対して自分の都合優先といった、あまりいい意味で使われる言葉ではないと思うが、もう少し考えてみると「他人のことを慮りながらの自分勝手」(何かするときの物事の具合のよしあし)な行動は、むしろ大事なことなんではないか?人生、自分のやりたいこと、やってみたいことに、もっと気を向けてみる必要があるんじゃないかと、これまでで一番素敵な領収証を受け取りながら思った。

 「お昼はどうされるご予定?」と聞かれ、特に決めていないことを伝えると、沖縄そばの店を2軒教えてくれた。サトウキビ畑を右に曲がり左に曲がり着いたそば屋は、とてもおいしそうだったが、ちょうどお昼時で混んでいたので、こちらは次回のお楽しみにとっておくことにした。

 今回の沖縄滞在中も、そんな繋がりからの出逢いが、まだまだいくつも。人に会って、次の展開が生まれていく連鎖がとても好きで、日頃から大事にしていることではあるのだが、やはり旅の間は、自分自身も大胆に、それを自分に許しているのだろう。これは私の、どぅかってぃか。沖縄での充実の日々はそろそろ終わる。海辺で拾った丸い石や貝殻と一緒に、偶然拾った言葉も大切に手に、いつもの拠点に、さぁ戻ろう。

Doucatty ご夫婦と記念に。
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