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クリス智子 クリス智子
クリス智子

my favorite things: roll top desk

CHRIS TOMOKO

my favorite things: roll top desk

CHRIS TOMOKO

my favorite things: わたしの家の大好きなモノたちのハナシ

  我が家のキッチンのすぐ横、ガラスの引き戸越しに私の小さなスペースがある。仕事の資料の本が山積みになっていたり、手紙や包装紙の棚の横には、アンティークのミシン、バッグが引っ掛けてあるラック、空に旅立った愛犬の写真、家族の絵など、あれもこれもが一緒にある場所だ。台所はオープンキッチンということもあり、ダイニングとキッチンと机、これらがほぼ一緒の空間にあるのだが、リノベーションをする際に、どうしようかと思っていたとき、ふとフィラデルフィアの祖父母の家のキッチンと机の距離感を思い出し、参考にした。机は、もともと持っていたもので、蛇腹巻き上げ式のロールトップデスク。蛇腹を開けば引き出しの鍵がはずれていき、閉じれはすべてロックされる仕組みで、シンプルかつ巧妙なカラクリには、いまでも感心する。ガラガラガラ、という音もいい。机まわりは概ね散らかり気味なので、客人がある時は、とりあえず閉めれば隠せるのはありがたい。(そして、これにすっかり甘える癖もついてしまった)

 実はこの机も、祖母のような机が欲しいと思い、20代半ばごろから探しはじめ、10年がかりで出逢い購入したもの。ありそうでない、というのを繰り返していた。木の色が赤すぎたり、金具がゴージャスすぎたり、状態がいまいちだったり。一度、ニューヨーク旅行中に入った文具専門店で、とても似たものを見つけ「やっとあったー」と思ったのもつかの間、輸送のハードルも高ければ、そもそも非売品でがっくり、振り出しに戻った。「あの机と同じもの」を探すこと自体、アンティーク家具では無理難題なのだけれど、頭の中にピントの合ったイメージがあるものだから、どうにもごまかせない。結局、悶々としながらも弛まぬリサーチの末、ある日、ふと立ち寄った店で「!」という出逢いを果たし、ロード・トゥ・ロールトップ、フィニッシュ。そこから20年ほど、私の机でいてくれている。 

 起点でもある祖母の机の話だが、いつも忙しくて動き回っていた活動的な彼女が、机の前に座っていたのを見た記憶は、実はあまりない。キッチンにいたり、庭にいたり、仕事をしたり、買い物に出たり。でも、何か連絡すべきこと、あの日の写真を見たい時、仕事の詳細が記されたノートがいる時、その蛇腹をガラガラッと開けると、なんでも出てきた。小さかったわたしは、あの蛇腹の中には、彼女のすべてがあるような気がして、その秘密めいた机が好きだった。きっと私の机もそうなっていくことだろう。祖母の机の上には、私が20歳のころにクリスマスに送った手作りのテディベアがちょこんと座っていて、飾ってくれていてとても嬉しかった。自分のロールトップをガラガラと開けるたびに、その時に必要なものと一緒に、そんな風景も開けてくる。

(drawing by Yuito) 

 

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