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クリス智子 クリス智子
クリス智子

ガラスのペンギン

CHRIS TOMOKO

ガラスのペンギン

CHRIS TOMOKO

 外に飾ると永遠に溶けない氷のようで、ガラスの塊は見ていて気持ちがいい。ペンギンというのも、暑さを和らげてくれる。これは、我が家にある2つのペンギン。私にとって、ちょっと特別な思いを寄せる動物だ。

 アメリカの祖父が亡くなったのは、まだ私が仕事を始めたばかりの23歳の頃だった。身内のお葬式は初めてで、家族と一緒にアメリカに行くものだと思っていたが、ラジオの帯番組の生放送を担当しはじめたばかりの私は、泣く泣く諦めざるをえなかった。仕事の厳しさを痛感した最初の出来事だったかもしれない。結局、グランパとは20歳の夏休みに帰った時が最後になった。

お別れの会を終えて帰国した家族から、グランパの形見として、私の元にはガラスのペンギンがやってきた。アメリカのティファニーと並ぶガラスメーカーだったSteuben(ステューベン)の動物シリーズから、家族それぞれに違う動物が手渡されたのだ。イルカやクマ、鹿など。私のペンギンはぷっくりして、すっぽり手に収まり、触っていて気持ちがいい。いつも玄関先で大きなハグで迎え入れてくれたグランパを思い出し、時折、小さく片手でハグをする。

 時は経って2019年4月1日エイプリルフールの日に、アメリカの祖母もついに旅立った。ユーモア好きだった彼女らしい日に。活動的で、気丈で、ジープを乗り回していた彼女には、折に触れ、大事なことを教えてもらった。30代半ば、人生にへこたれていた時期に夏休みをとって帰った際、お茶でもして行く?とジープをとめ、コーヒーショップでゆっくり私の話に耳を傾けてくれた。一人の人間として向き合って言葉をくれ、私には私のやるべきことがあるのかもしれない、と力を取り戻し、東京に戻った。

グランマが旅立った後、Steuben の動物シリーズを検索、グランパペンギンより少し小さめのペンギンを今度は買って、横に並べた。ガラスに入り込む光は、時折、その人が現れるようでもある。透き通った軽やかな姿で。生前、二人にペンギンの要素を一つも思ったことがないので、いまこうしてペンギンの姿をしていることにクスッとする。

 ところで、Steubenのガラスの彫刻デザインには、アンリ・マティスや、サルヴァドール・ダリ、イサム・ノグチなどの世界的な芸術家たちも関わっていたり、すっかりおなじみのリンゴ型ガラスオブジェの起源でもあるガラスメーカー。90年代のドラマ「ラブジェネレーション」でも使われていたガラスのりんごを、覚えている方、いるでしょうか?あれもそうだったと後から知り、へぇと思ったことも。

 誰かを思い出すカタチがあるのは嬉しい。ガラスの動物というカタチも、とてもいいなぁ、と年々思う。私は、いつか、何に姿を変えるのだろう?

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