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クリス智子 クリス智子
クリス智子

wall&paper

CHRIS TOMOKO

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CHRIS TOMOKO

家の1階の洗面台と私の小部屋は、壁紙にした。全面ではなく、1面か2面に。紙という素材を壁に貼るというシンプルな感じが好きだし、デザインや柄も豊富なので家の中にちょっとした空間を作りやすい。ちょっとした空間、ふと一人になる空間。家の中で、こういう瞬間は大事だと思っている。壁に無地を求める場合は、漆喰や珪藻土、はたまたペンキの方がニュアンスが生まれやすいので「塗り」を選ぶことが多いが、ほんの少し特徴的な空間にしたいときは壁紙なのだ。1階の洗面台は、LOTUSという壁紙。この柄に絞るのにはそう時間はかからなかったが、色違いだけで20種類ほどあるので、色味でかなり迷い、結局この色に落ち着いた。一旦壁になってしまうと、不思議と後悔することはない。繰り返される大胆なリズムで小さな世界が。

 ちなみに、これはイギリスのペイントブランド”Farrow & Ball”のものだ。やはりペイントの色の美しさゆえの壁紙の色の美しさを実感する。(自分たちで塗った別な場所の壁も、F&Bのペンキ)職人によるハンドクラフトの壁紙で、撫でるとそれがよく分かるのだが、繊細に立体感があり、紙としての美しさを指で感じられる。壁紙の種類は世にあまた、値段もピンキリである。似たようなもので安いものもある。大量生産や低コストを最優先した安全性が問われるものもたくさんある。できるだけ見極めたい。私は、紙が昔からとても好きで、旅先では紙を求めてお店を尋ねたり、紙漉き体験をしたりと、まぁ、そんな趣味程度の話だが、素敵な紙に出逢うと興奮する。たかが紙、されど紙。壁紙レベルになると、また手元の紙から急に広がりがあるものの、F&Bの壁紙はどこか近くに感じられる。森林や人間の健康への配慮をしながら、追求している発色や、職人の仕事を見られる喜び、古き良きものを未来へアップグレードさせていくデザインなどに、いろいろと理由はあるのだと思う。コロナの頃は、古い家具の一部などをペンキで塗ったアップサイクルのアイディアも紹介していて、次に何か色でチャレンジするときに、やってみようと思っている。

 もう一つ、私の小部屋の壁紙は(おっと、こちらもイギリスだ!)Brendan Young とVanessa Battaglia というデザイナーユニットのものだが、このお二人の生む壁紙は、リアルかつ、ユーモアセンスが効いたもの多く、いちいち驚きながら物色する時間も楽しい。私の部屋に選んでいるのは、1800年代後半からのアーツ・クラフト運動からの流行柄を踏襲しながらも、それをポップに解釈、色もモノクロ。木や、蔦、鳥、花、リスなどがてんこもりに配置された柄なのだが、黒と白のスケッチのようで、圧がない。飽きない。

 さて、我が家の壁紙は職人さんに貼っていただいたが、やはり一番のドキドキは、壁に貼るとき、いかに図柄を違和感なくリピートできるか、にある。あれは難しそうだ。洋服でもそうだが、プリント生地にズレがあるか、ぴたりと合っているかで、技術やその現場の様子が垣間見えるというものだ。そのズレが愛嬌になる場合もあるから一概には言えないが、壁紙においては、できれば繋ぎ目に毎日、気を奪われたくはない。

 私の部屋の壁紙を貼るときに、ワクワクそばで見ていたとき、職人さんが「あ.....」と静かに漏らした声を私は聞き逃さなかった。「もしかしたら、逆に.....」と言われ、慌てて、一緒に柄の確認をしたところ、鳥もリスも、地に足がついた方向で、へんな緊張感からの安堵で、一緒に胸を撫で下ろし笑った。今思うと、どこか逆に貼ってしまうのも面白いのかもしれないけど。こうして、壁紙のことを書いていたら、また壁紙で悩みたくなってきた。壁紙病だ。どこかに壁、なかったかな。

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