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クリス智子 クリス智子
クリス智子

夏とジェットコースターとわたし

CHRIS TOMOKO

夏とジェットコースターとわたし

CHRIS TOMOKO

 そろそろ終わる。変わらぬスケジュールの日々に子供の夏休みが追加され、気力体力ともに挑戦の季節が。せっかくの夏休み、楽しんでほしい、一緒に思い出をつくりたい。あれを見せたい体験させたいと、私の方が欲張りになってしまうのかもしれない。ぼーっとする夏もまた良いと思っているが、大人になると、まとまった長い時間なんてなかなかないのだ、という過剰な思いも上乗せしているのだろう。小さかった頃の自分の夏休みも思い出す。途方もなく長かった夏の一日、終わって欲しくなかった夏の一日。ずっと宝物の夏。忘れてしまったこともたくさんあるのだろうな。

 何をすると言っても、細々と予定を入れられないので、週末の小旅行をいくつか。今年は、伊豆、能登、沖縄。行く先々での計画はほぼ立てない。朝ご飯を違う景色の中で食べる、町で少し違う言葉を耳にする、みんなで道筋を考えて移動する。地形に驚いたり、看板に笑ったり。面白そうなものが目に入ったら、面白がって方向転換する。友人がいたら会いに行く。全体が自由時間、電波が入らないところを喜んで諦め、目の前にある世界をすべてにする。

 そうやって旅先で過ごす分には、アクティブになりながらも、ゆったりできるのだが、夏は、年齢を実感する季節にもなってきた。わかりやすいところでは、子供と一緒に楽しんだあとの蚊に刺されや擦り傷の治りの遅さ、太陽がガンガンに強い日は、夕方まで外に出るのも億劫になったり、プールに行かないままでも寂しくないし、連日素麺でも飽きなくなった。確実に、夏への態度が変わったのだ。目が悪くなった、シワが増えたとか、そういうこと以上に、気持ちの変化に小刻みに驚く。

 昨年、そういった意味で少しショックなことがあった。本当に小さなことなのだが、ジェットコースターに乗ろうと息子と並んでいる時に、初めて怖気づいたのだ。え...私が?ジェットコースター大好きで生きてきた私は、自分の気持ちを疑った。宙に身体をまかせて逆さまに浮く感じも、目を開けながら急降下するのも、むしろ快感だったではないか。自問自答するうちに列は少しずつ進み、あと一歩というところで「今日はごめん」とまさかのリタイヤ。せつない夏だった!

 それから2度乗ったので、たまたまだったとも思うのだが、そういう日が増えてはいけない。あの日から、私のジェットコースターのリハビリは静かに始まっている。私には、おばあちゃんになっても平気な顔してジェットコースターに乗りたいという、ちょっとした妙な理想があるのだ。(もちろん体調万全な場合が条件で)しかし、最近は上限年齢を設けているところもあるらしいので、見かけたら乗っとく、ぐらいのフットワークでリハビリには望んだ方が良さそうだ。自分を過信してもいけないのだろうから、いつの日か、係の方に止められた時、「そうですか..」と、これまで十分乗ってきた様子を背中で物語りながら、にっこり素直に列をあとにできるように。観覧車も然り。なんでもなかったあの高さを、喜べない一瞬が心に芽生えたことを察知してしまったことがあるので、こちらも気が抜けない。子供の成長を目にしながら、自分はどこに向かっているのだろうか。この暑さも落ち着くころ、私の一つの心のバロメーターに、また久しぶりに乗りに行こうと思う。とにもかくにも、ひとまず、ジェットコースターのような夏休み2023は、ジ・エンドを迎えようとしている。

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